「コーチング」をご存じでしょうか?
スポーツの一流選手でコーチがいなかった人はほとんどいないでしょう。スポーツ界では当たり前のように存在するコーチですが、日本のビジネスシーンではまだまだ見かけることが少ないようです。今回はこのコーチ、そしてその行為としてのコーチングについて解説致します。
コーチングとは?
コーチングとは、簡単には「対話を通して目標達成を支援するプロセス」だと言えます。ここに指導的な要素はありません。
根底にあるのは、「人は自分のことを分かっているようで、完全には理解できていない」という事実です。本来、自分がどうしたいのか、それを達成する為にどうすれば良いのかを知っているのだけど、それらが頭の中で整理できていない為に実行に移せないでいます。それをコーチが手助けするのです。
一度、もやもやしていることを紙に書き出して、その原因について独りでブレイン・ストーミングをやってみてください。原因の抽出のみならず解決の選択肢まで意外にさらさらと書けてしまい、びっくりすると思います。
これはセルフ・コーチングの1種です。自分で自分に質問をすることで気づきや答えを導く方法です。コーチングでは本人以外の人が、より広い視点で順序だてて質問をしてくれるので、気づきも多くなります。
コーチングの工程・流れを見てもらえると実際のコーチングで何をするのかについての理解が進むかと思います。
(ビジネス)コーチとは?
簡単に表現すると、「コーチとは対話を通じてクライアント(コーチングを受ける人)の潜在能力を引き出し、行動を促すことで目標達成のサポートをする人」です。もともと「コーチ(Coach)」とは四輪馬車をことを意味していました。馬車は人を目的地まで連れて行く乗り物です。これに由来し、人の目的達成をサポートする人のこともコーチと呼ぶようになったと言われています。
あくまでも目的達成をサポートするのがコーチの役割なので、「ああしろ!」「こうしろ!」と偉そうに指示を出すというものではありません。コーチとクライアントとの関係はあくまでも対等です。クライアントの潜在能力や秘めた可能性を一緒に考えながら引き出し、行動として形にできるように仕向け、一緒になって目標を達成するのがコーチの役割です。
コーチが端的な解決策を出すことはありません。解決策はクライアント頭の中にあるのです。コーチは、様々な手法を使ってその解決策を引き出していきます。この手法については、コーチングにおける会話手法を参照ください。
ICFジャパン(国際コーチ連盟日本支部)による定義
ICFジャパン(一般社団法人国際コーチ連盟日本支部)が定めるコーチングの定義をご紹介しておきます。
「コーチングとは、思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くことです。対話を重ね、クライアントに柔軟な思考と行動を促し、ゴールに向けて支援するコーチとクライアントとのパートナーシップを意味します」
ICF(一般社団法人国際コーチ連盟)は、コーチの認定やコーチの育成プログラムの認定を行う国際的な機関です。認定については、コーチの認定制度についてをご参照ください。
コンサルティング・カウンセリング・ティーチング
よくコーチングと比較される手法にティーチング、コンサルティング、カウンセリングがあります。簡単に説明すると、ティーチングは、学校の授業にイメージされるような一方的な指導。コンサルティングは、目標達成や問題解決のための策を考えて「こうしませんか」という提案。カウンセリングは、メンタル領域などの専門家による病気の治癒や問題の改善を目的としたサポートといえます。
目的とする目標達成・問題解決、主体性(気づき・自発/指導・受け身)という2つの軸で考えると区別の理解が進むと思います。
ティーチングは、様々な目的に対して指導を行うことで知識を植え込みます。先生が生徒(クライアント)に一方的に教えるイメージで受け身の度合いが強いです。
コンサルティングは、問題解決や目標達成に対して調査・検討した結果を伝え、提案するもので、やはりクライアントとしては受け身になります。
一方で、コーチングは問題解決も含めた目標達成の為にクライアントの自発的な気づきを促すものになります。
コーチングで取り扱うテーマは、人生目標のように「緊急性は無いが重要なこと」が最適です。これについては、コーチングで扱うテーマでもう少し詳しくお話しします。
コーチングの歴史と市場規模
もともと「コーチ(Coach)」という単語は四輪馬車のことで、今のタクシーを意味していました。1950年代に入って「客を目的地まで送り届ける」という意味から転じて、現在の「クライアントの目標達成を支援する」という意味でも使われるようになったと言われています。
米国で1980年代からコーチングに関する書物が多く出版され、ビジネス・マネージメントの分野でコーチングが認知されるようになりました。日本でビジネス分野にコーチングが取り入れられるようになったのは、1990年代後半と言われています。
国際コーチング連盟(International Coaching Federation: ICF)が2020年に発表したの調査(The 2020 ICF Global Coaching Study)によると、コーチとして活動している人は、アジアで約4,600名、北米で約23,300名、世界で約71,000名となっています。その他に、コーチングスキルを活用して企業内でマネージメントをしている人が、アジアで約3,400名、北米で約3,000名、世界で約15,900名となっています。
コーチングの市場規模は、アジアで約126百万ドル、北米で1,296百万ドル、世界で2,849百万ドルとなっています。2015年から2019年までに21%の増加がありました(年間平均4.9%の増加)。
これらの調査は提出されたアンケートの回答を集計したものなので、実際の市場はこの数倍あるということも十分考えられます。
IBIS World社が2021年1月に発表した統計資料によると、2020年のビジネス・コーチング市場は⽶国だけで116億ドルに達します。日本においては300億円ほどの市場があると言われていますので、米国の40分の1程度ということになります。
2019年に発売された書籍「1兆ドルコーチ」で、アップルのスティーブ・ジョブズ⽒ら多くの経営者のコーチを務めたビル・キャンベル氏が有名になりました。米国では、トップ500社のうちで経営者がコーチを付けている割合は70%とも言われています。米国の例を追いかけるようにして、今後、日本でもコーチング市場が成長する可能性は大いにあるでしょう。
コメント